2020年に「種苗法」が改正され、原則自家増殖が禁止となりました。
改正される以前、自家増殖した日本の種苗が海外へ流出して現地で量産されるという被害例がありました。
そのような被害を防ぐため、今回の改正種苗法が施行されるようになったのです。
しかし、現状では賛成と反対意見が存在し、意見が分かれています。
種苗法の改正により、今までの種の入手の仕方や流通の仕組みが変わったため、反対意見が多いのが現実です。
反対意見の多くは、農家から出ています。なぜ、農家からの反対意見が多く出ているのでしょうか。
今回はそんな種苗法と、それに関連する法律について解説していきます。
この記事でわかること
種子法とは?
種苗法の解説をする前に、種子法という法律について解説していきます。
種子法とは、「主要農作物種子法」の略で、昭和27年(1952年)に制定された法律です。
法律の内容を簡単に説明すると、「国が都道府県に対して米、麦、大豆の種子生産を義務付ける法律」になります。
種子法が制定された昭和27年(1952年)は、戦後間もない食糧難の時代でした。そのような背景もあり、当時国は食料難の打開策を検討していたのです。
種子の確保は食料難の打開策となるため、国をあげて種子の生産に力を入れ始めました。
種子の開発は「国の研究機関」「地方公共団体」「民間企業」の3つで現在も行われています。
開発された種子の増殖は、農家の役目です。
【種子の開発機関】
①国の研究機関
②地方公共団体
③民間企業
※種子の増殖は「農家」の役目
種子法では、都道府県が農家に対して生産指導を行います。具体的な指導内容は以下の4つです。
【都道府県による農家への生産指導(種子法)】
①生産圃場の指定
②圃場審査、生産物審査
③審査証明書交付
④助言、指導
上記4つの指導を基にして、国が都道府県に対して種子の生産を義務付けたのが種子法です。
参考文献:農林水産省 主要農作物種子法概要
種子法廃止の理由と経緯
その種子法は、2018年に廃止となりました。その理由や背景は、どんなものがあるのでしょうか。
種子法廃止による懸念点などについても解説していきます。
種子法が廃止された理由
2018年に廃止となった種子法ですが、廃止となった理由は、種子開発に「競争」が生まれにくかったことに起因します。
種子法が施行されていた頃は、国や地方自治体が種子の開発に深く関わっていました。それにより、民間の機関は参入が難しく、種子開発は採算が合わなかったのです。
種子開発を国や地方自治体の機関が独占することで、「競争」が生まれにくいという問題点があったのですが、競争が無いと品質や新品種の開発スピードなどが向上しない側面があります。
日本の主要農産物である穀物の更なる品質向上を目指して、国は種子法を廃止することに決めました。
種子法廃止の懸念点
しかし種子法廃止による懸念点は、以下のようなものがあります。
【種子法廃止による懸念点】
①各自治体の種子開発の予算が削られる
②各地域の独自品種が減少する
③種子の供給量低下
種子法は、国が都道府県に対して穀物の種子生産を義務化した法律です。
しかし、廃止になったことで、都道府県は種子の生産が義務では無くなりました。そのため種子の開発に使われる予算が削られる可能性があります。
また、種子の開発が本格的に行われなくなれば、各地域の独自品種が減少する可能性もあります。
さらに種子の生産量自体が減少することもあるでしょう。
種子の生産量減少は農家の収入減少にもつながる恐れがあるので、専業農家さんにとって看過できない問題でもあります。
道府県の「種子条例」制定
種子法が廃止されたことで、全国の農家が不安になりました。種子の安定供給ができなければ農家は穀物を生産できず、収入が不安定になるからです。
そのような背景から、農家さんたちは警鐘を鳴らし始めました。
そして行政に働きかけた結果、道府県が指定した品目の種子の安定生産が目的とする「種子条例」が各々の自治体で制定されていきます。
種子法が廃止され、各自治体の種子生産の義務は無くなりましたが、種子法とほぼ同様に各自治体が主体となって種子の生産を行うようになったのです。
全国で初めて種子条例が制定されたのは新潟県です。その後は、新潟県を筆頭に全国に種子条例が広がっていきました。
種子法では対象となる種子が「穀物」となっていましたが、種子条例では穀物以外の品目も対象となっています。
対象品目については、各自治体ごとに異なります。例えばソバ、エンドウ、インゲンなどのように、各自治体の主要農産物を対象としています。
国が管理する「種子法」とは異なり、各自治体毎に種子の生産体制を決めているのが「種子条例」なのです。
種子法(廃止) | 種子条例(現行) | |
対象品目 | 穀物(米、麦、大豆) | 各自治体の主要農産物 |
種苗法とは?
種苗法とは、「育成者」以外の人が種を採取するなどして、勝手に農作物を増殖させるのを防ぐための法律です。
農林水産省に農産物を「品種登録」することで、「育成者権」を得ることができます。
過去に、日本から海外へ無断で持ち出された農産物が、外国で増産される事例がありました。
そのような被害が続くと、日本独自の農産物が海外で大量生産され、日本で生産される品質の良い農産物の価値が低くなってしまいます。
特定の農産物を品種登録することで、海外への無断流出を防ぐことができます。
品種登録をすると育成者権を得ることができ、育成者の許可なく無断で流通させることはできません。
そのため育成者は品種登録された農産物を専有し、管理することができるのです。
参考文献:農林水産省 種苗法の一部を改正する法律の概要
種苗法改正が実施された背景
先述したように種苗法が改正された大きな理由は、日本の種苗が海外へ無断で持ち出される被害が多発したためです。
海外へ流出した種苗は、日本で何年もかけて開発された高品質なものばかりでした。
そのような品質の良い種苗が海外へ流出することにより、日本国内で生産される農産物の価値が低下してしまいます。
種苗法改正以前、海外へ流出した原因は「自家増殖」でした。
改正以前は、農作物の種苗を自家増殖させることができたので、多くの農家が自家増殖をしたことにより、農作物の種苗が市場で自由に出回るようになったのです。
このような背景から、改正種苗法では自家増殖が禁止されました。
種苗法改正の要点
種苗法が改正され、具体的にどのような点が変わったのでしょうか。改正後の具体的な変更点は、以下の3つです。
【種苗法改正による変更点】
①「品種登録」することで種苗の海外流出を防げるようになった
②「育成者」の許可が無ければ種苗を流通させられなくなった
③「品種登録」にかかる許諾料が見直された
種苗法が改正されたことによって、規制がさらに厳しくなりました。そのため、種苗の無断流出をより強力に防げるようになったと言えます。
具体的には、「品種登録」により「育成者」が種苗の管理をすることができるようになりました。育成者の許可が無ければ種苗を自家増殖することはできず、自由に流通させることができません。
もし、育成者の許可なく無断で自家増殖や流通させた場合は、処罰の対象となります。
また、品種登録にかかる許諾料が見直されました。品種登録にかかる許諾料は以下の通りです。
【品種登録時の許諾料見直し】 | ||
改正前 | 改正後 | |
出願料 | 47,200 | 14,000 |
※1〜3年目 | 6,000 | 4,500 |
※4〜6年目 | 9,000 | |
※7〜9年目 | 18,000 | |
※10年目以降 | 36,000 | 30,000 |
※登録料ー単位:円
種苗法改正の懸念点
種苗法改正は、良いことばかりではありません。種苗法が改正されたことによって、農家への負担が増えるのではないかと懸念されています。
特に、自家増殖の禁止については深刻な問題を孕んでいます。
改正前の種苗法では、農家が自家増殖することは合法でした。しかし、改正後は「育成者」の許可がなければ自家増殖ができません。
そのため、自家増殖をして種苗を入手していた農家は、種苗業者から購入しなければならなくなりました。
毎年、種苗の購入費用がかかるため農家の負担が増えてしまいます。
農家への負担は購入費用だけではありません。
育成者からの許可を得るための事務手続きなども負担になる可能性があります。
種苗法の改正により、手続きの複雑化や種苗の購入費用など農家さんの負担が懸念されています。
種は誰のものか?
種子法の廃止、種苗法の改正によって種苗を取り巻く状況は大きく変化しました。
ところで、種子は一体誰のものなのでしょうか。
種子法が廃止される以前は、各自治体が種子を主に管理していました。
しかし、現在では種子法が廃止され、各自治体の管理責任も義務ではなくなりました。
では、実際のところ種子は誰のものなのでしょうか。
個人の自家増殖が禁止される?
種苗法が改正されてから、「育成者」の許可が無い場合の自家増殖は禁止となりました。
過去に、日本国内で自家増殖された果物の種苗が海外へ持ち出され、現地で量産される被害がありました。そのような背景から、自家増殖は育成者の許可制となったのです。
現在施行されている種苗法では、「育成者」が最も強い権利を有しています。
育成者の許可がなければ、種苗を流通させることも、自家増殖させることもできません。「育成者」が持つ権力はとても大きなものです。
その「権利」によって、海外など外部への流出を防ぐ役割も担っています。
では、種は育成者のものなのでしょうか。育成者の持つ権力や責任はとても大きいですが、「種は育成者のもの」と言い切ることも難しいでしょう。
なぜなら、育成者の権利には期限があるからです。25年または30年経てば、育成者の効力は失われます。
ですから未来永劫「種は育成者のもの」とも言えないわけです。
グローバル企業開発の特許種子
種子法が廃止になったことで、民間企業が種子開発に参入しやすくなりました。
民間企業の中には、グローバルに事業を展開する企業も存在します。
そのようなグローバル企業が参入することで、市場では競争が生まれるため、より高品質の種子が開発されやすくなるというメリットがあります。
一方で、グローバル企業が開発種子を特許取得することで、種子を独占することも可能ということです。
グローバル企業が特許を取ることで、世界的に強い影響力を持ってしまうというデメリットがあります。
特許が取得された種子を他社が開発に利用することはできないので、小規模な企業は開発が難しくなるわけです。
グローバル企業が種子の特許を取得することは、日本の農産物の安全性が揺るがされる事態に直結します。
なぜなら、海外では遺伝子組み換え種子などが大量に生産されており、そのような種子を使って日本の農地でも作ろうと検討している企業が存在するからです。
このようにグローバル企業が種子を支配し、遺伝子組み換え種子を日本の農家へ販売した場合、日本の農業、はたまた「食」はどうなってしまうのでしょうか。
世界的に見ても安全安心で高品質な日本の農産物ですが、グローバル企業が開発した特許種子によって、自給率・安全性が揺らいでしまう可能性もあるのです。
まとめ
種苗法や種子法は、戦後の食糧難の時代から農産物の安定供給に寄与してきました。
しかし、種子法は2018年に廃止され、種苗法は2020年に改正されています。種苗の海外流出を防ぐためにも、種苗法や種子法は重要な役目を果たしていることが分かりました。
一方で、種苗法の改正は懸念点もあります。それは、民間企業が開発種子の権利保護を受けるということです。
民間企業には、海外に拠点を置く「グローバル企業」も含まれ、グローバル企業が開発種子の特許を取得することで、日本の農作物の自給性や食の安全性が危ぶまれています。
現に、海外の企業は日本の種苗市場に標準を合わせており、資金力、ノウハウが豊富にあるグローバル企業が種子を支配することによって、日本は遺伝子組み換え種子を強要される可能性も指摘されています。
種苗法の改正、種子法の廃止は、今後世界的に大きな影響を及ぼすことになるでしょう。この2つの法改正は、日本の食と農業を揺るがす可能性を秘めています。
今後の日本を守るためにも、国民全員が注視・認識すべき重要な法改正なのです。