日本の夏の風物詩とも言える緑色の蚊取り線香。
蚊除けアイテムとして古くから使われ、梅雨が始まる前後からコンビニや薬局の店頭に並びます。
電子式蚊取り線香や、アロマ風蚊取り線香、無臭の蚊取り線香など、さまざまな種類が出回っていますが、蚊取り線香の成分による喘息や発がん性など、健康へのリスクはないのでしょうか?
今回は、蚊取り線香の原材料と成分を分析し、蚊取り線香による健康への影響とそのほかのリスクについて解説します。
さらに、赤ちゃんやペットがいても安心の無害なオーガニック蚊取り線香も併せてご紹介します。
この記事でわかること
蚊取り線香とは?
蚊取り線香の発祥
19世紀後半、蚊取り線香の発明者である上山英一郎は、米国植物輸入会社の経営者であるH・E・アモアに珍しい植物の種子を進呈し、そのお返しとして除虫菊の種子を譲渡されました。
除虫菊はユーゴスラビア、ダルマチア地方を原産地とするキク科の多年草です。
程なくして除虫菊種子の栽培に成功した上山氏は、1890年に仏壇の線香から着想を得て、除虫菊粉に蜜柑の皮の乾燥粉と糊粉を練り込んだ蚊取り線香の原型「金鳥香」を完成させました。
当初の金鳥香は棒状で持続時間が短く、細いため殺虫効果も弱く、また倒れて火災の原因となるなど、実用性に欠けていました。
その後、山上氏の妻、ゆきがトグロを巻いた蛇を見たことをきっかけに渦巻型に改良され、長時間の持続に加えて、転倒しにくく丈夫な蚊取り線香が完成、さらに大日本除虫菊株式会社が設立され蚊取り線香「金鳥」の販売がスタートしました。
山上氏による普及活動によって、和歌山、愛媛、さらに北海道で生産されるようになった除虫菊の種は、戦前には日本の主な輸出品の一つになりましたが、戦時中の食糧難事情、さらに除虫菊の天然殺虫成分(ピレトリン)に似た、合成類似化合物「ピレスロイド」が開発されたことで生産量は減少し、現在の蚊取り線香では化学合成されたピレスロイド系薬剤が使用されています。
蚊取り線香の原材料
蚊取り線香の主成分は、ピレスロイド系殺虫成分です。
元々は除虫菊から採取したピレトリンによって作られていましたが、先述した通り除虫菊の生産減衰に伴い、合成されたピレトリン類似化合物が使われるようになりました。
その他の一般的な蚊取り線香の原材料は以下の通りです。
①燃料:植物性微粉末(木材パウダー・炭粉など)
②殺虫成分:ピレスロイド(dl・d‐T80‐アレスリン)
③粘着剤:澱粉
④その他・防腐剤など:デヒドロ酢酸Na、着色剤
蚊取り線香のリスク
蚊取り線香の有害成分
天然の除虫菊から抽出される殺虫成分のピレトリン、または化学合成されたピレスロイドは、ヒトなどの温血動物に対しては毒性が低く、体の中で素早く分解され体外に排出されます。そのため、人への健康影響は少ないと考えられている一方、害虫が体内に取り込むと強い毒性を示し、殺虫効果を発揮します。(※選択毒性:特定の生物に対して高い毒性を発揮する性質のこと)
下記は昆虫とラットに対し、どれだけの量のピレスロイドを投与すると毒性が現れるかを比較した表です。
ラットと昆虫に対するピレスロイドの有毒性 | |
ラット | 昆虫 |
2000mg/kg | 0.45mg/kg |
除虫菊の殺虫成分ピレトリンと化学合成されたピレスロイドは分子構造は同じであるため、毒性において差があるわけではありませんが、一方で、化学合成されたピレスロイドは、除虫菊のピレストリンに比べ体内で分解するのに時間がかかるため体内に長く残留するという見解もあるようです。
蚊取り線香に使われるピレスロイド系の「アレスリン」という成分は、ヒト末梢血リンパ球に対して遺伝毒性と細胞毒性を誘発することがわかっています。(参考:A Permethrin/Allethrin Mixture Induces Genotoxicity and Cytotoxicity in Human Peripheral Blood Lymphocytes
また、アレスリンの毒性はラットに対して生殖機能障害を引き起こすことも研究により発見されました。(参考:Allethrin toxicity causes reproductive dysfunction in male rats), Exposure to allethrin-based mosquito coil smoke during gestation and postnatal development affects reproductive function in male offspring of rat, Effect of continuous inhalation of allethrin-based mosquito coil smoke in the male reproductive tract of rats
このように、人への毒性が弱いとは言え、神経毒性を持つピレスロイドを大量に吸い込むことでの影響、また閉めきった屋内で蚊取り線香を炊くことにより、「嘔吐、悪心、呼吸困難、頭痛や皮膚炎」などの症状を起こすこともあるため注意が必要です。
蚊取り線香の煙による喘息と発がん性
市販の蚊取り線香を燃焼させることで、PM2.5をはじめ、ホルムアルデヒドやベンゼンなどの発がん性物質が空気中に放出されることがわかっています。
研究によると、一般の蚊取り線香を1本を燃焼させると、タバコ75〜137本と同じ量のPM2.5、タバコ51本分のホルムアルデヒドが放出されることが確認されました。(参考:Mosquito coil emissions and health implications.)
このように屋内での蚊取り線香の長時間の使用は、肺機能の低下や喘息を誘因するなどの悪影響の可能性があるため、お子さんのいる家庭などでは空気の入れ替え、換気などを十分に行いましょう。
台湾では蚊取り線香の煙への曝露が肺がんの危険因子となる可能性がある
蚊取り線香の火災リスク
無炎燃焼による火災は、タバコや線香に次いで、蚊取り線香もリスクの一つです。
2021年には、台湾で蚊取り線香の不始末が原因の火災で、46人が亡くなる事件がありました。
特に蚊取り線香は夜間での使用、床へ直置きが多いため、十分な火消しスペースを確保するなど安全への配慮が重要です。
蚊取り線香によるその他のリスク
先述したように、蚊取り線香は昆虫全般、及び海洋生物への殺虫効果もあるため、熱帯魚や虫を飼育している家庭では注意が必要です。
また、蚊取り線香の使用によって化学物質による影響で「化学物質過敏症」や「シックハウス症候群」のリスクが上昇するとの報告もあるようです。
蚊取り線香使用時の注意点
蚊取り線香の煙によるリスクを勘案し、閉め切った屋内での使用は避けましょう。
蚊の侵入を防ぐための網戸をして換気の良い空間での使用をお勧めします。
安全な蚊取り線香5選
ここまで蚊取り線香の成分とそのリスクをみてきました。
除虫菊のピレトリンと農薬であるピレスロイドは、基本的には構造における違いがなく毒性について明確な差があるわけではないようです。
ただし、一般的な蚊取り線香には、粘着剤や着色料、防腐剤などが添加されているため燃焼した際の煙や、アレルギーや喘息体質の方、化学物質に対して抵抗のある方は、天然の除虫菊のみで作られた蚊取り線香を選ぶと良いでしょう。
ここでは、化学合成された成分が使われていない無添加の蚊取り線香をご紹介します。
りんねしゃ 菊花せんこう
成分 | 除虫草(シソ科ハーブ)、薄荷(北海道滝上産ハッカ)、除虫菊末10%(北海道滝上産・中国産総ピレトリン 0.1%)、白樺木粉(北海道産)、タブ粉、澱粉 |
自社栽培の中国原・北海道産の除虫菊を原料とした蚊取り線香です。
無添加食品や有機農畜産物を製造販売する「りんねしゃ」が、蚊取り線香メーカーに委託して作っています。
北海道白樺木紛と和種はっか、中国産除虫草を原料とし、合成ピレスロイド系殺虫剤、農薬、合成着色料、染色剤不使用なので、乳幼児がいる家庭でも安心です。
一巻きで約6時間分です。
昔ながらの天然除虫菊 蚊取りせんこう
成分 | 除虫菊末(総ピレトリン0.4%)、植物混合粉 |
100%天然素材(除虫菊の花及び茎、葉の粉末)で作られた、無香料、無着色の天然除虫菊蚊取り線香です。
お子さんやペットがいる家庭でも安心して使用できます。
一巻き約7〜7.5時間分。
かえる印のナチュラルかとり線香
成分 | 除虫菊粉末(ピレトリン)、除虫菊粕粉、タブ粉末、木粉、ヤシガラ粉末 |
合成着色料や防腐剤などの化学物質不使用の天然由来の蚊取り線香です。
一巻き7時間±30分。
夕顔 天然 蚊とり線香
成分 | 除虫菊粉末(ピレトリン0.56%)、植物混合粉、ソルビン酸 |
天然除虫菊の粉末で作られた無添加、無着色、無香料の蚊取り線香。
ピレトリン0.56%と高濃度で強力な殺虫効果を発揮します。
一巻き7時間±30分。
菊精渦巻 動物ペット用
成分 | 除虫菊粉末(天然ピレトリン) |
安全性の高い除虫菊粉末で作られた、天然素材100%の動物ペット用の蚊取り線香です。
長時間安定して使える、一巻き約9.5時間。