2011年の福島原発事故以降、放射能汚染による健康影響への不安が全国に広がりました。
原発事故から12年経った今でも、特定の食品から各地で僅かながらも放射性物質の値が検出されています。
食品ごとに国が定める「健康に影響の無い」基準値があるものの、有機・無農薬を掲げるオーガニック系の食材宅配サービス企業は、国の基準よりも厳しい自主基準値を設け、放射能が健康にあたえる影響・不安に対して安心安全を担保しています。
今回は食材宅配サービスごとの放射能検査と対策・基準値を検証し、比較していきます。食品通販を選ぶ際の一助となれば幸いです。
項目 | 通販業者 | ||||||||
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基準値()内は検査下限値 | 飲料水 | 5(1) | 6(3) | 不検出(3) | 10(10) | 10(3) | 1(3〜5) | 不検出(1〜5) | 10(1) |
牛乳 | 5(1) | 10(3) | 不検出(3) | 10(50) | 10(3) | 5(3〜5) | 不検出(1〜5) | 50(5) | |
一般食品 | 10〜25(2.5〜6) | 6〜50(3〜10) | 5〜50(3〜7) | 10(100) | 10〜25(3) | 10(3〜5) | 不検出(1〜5) | 100(10) | |
乳児用食品 | 不検出(1) | 6(3) | 不検出(3) | 10(50) | 10(1) | 5(3〜5) | 不検出(1〜5) | 50(5) | |
検査対象地域 | 全国 | 17都県:北海道を除く、静岡以東の本州産 | 17都県:北海道を除く、静岡以東の本州産 | 不明 | 17都県:北海道を除く、静岡以東の本州産 | 17都県:北海道を除く、静岡以東の本州産 | 不明 | 17都県:北海道を除く、静岡以東の本州産 | |
その他・特徴 | 検査対象地域限定無し | 一般食品のうち、魚介類ときのこ類のみ50Bq | 一般食品のうち、果物・根菜・肉・魚介・きのこ類などが50Bq | 九州産地の食材のみを扱う「oisix九州」コーナー有り | きのこ類のうち椎茸のみ100Bq | 検出下限値は低いが、具体的な基準値は不明 | |||
公式サイト | 生活クラブ公式 | 大地を守る会公式 | らでぃっしゅぼーや公式 | Oisix公式 | パルシステム公式 | ビオマルシェ公式 | 秋川牧園公式 | コープデリ公式 |
この記事でわかること
放射能と人体影響の単位
東日本大震災直後、国は放射性物質の濃度規制値を引き上げ、放射性ヨウ素について、飲料水が1kgあたり300Bq、野菜類は1kgあたり2000Bq、放射性セシウムは、飲料水・乳製品は1kgあたり200Bq、野菜・肉類は1kgあたり500Bqに設定しました。
その後、2012年4月1日から、一般食品は1kgあたり100Bqとなりました。
この基準値は、放射性物質を含んだ食品からの被曝が年間1mSv以下に抑えるための基準です。
厚生労働省によると、年間1mSvの根拠は以下となります。
①食品の国際規格を作成しているコーデックス委員会の現在の指標で、年間1ミリシーベルトを超えないように設定されていること
②モニタリング検査の結果で、多くの食品からの検出濃度は、時間の経過とともに低下していること
ベクレルとシーベルトの単位の違い
放射性物質を摂取した際の人体影響計算方法
- ※実効線量係数:体内に取り込まれた放射性物質の量と臓器が受ける生物学的影響(年齢など)を考慮した被爆線量を計算するための係数
- ※預託線量:1度に摂取した放射性物質の量から算出した、将来(摂取後50年間・子どもは70年間)にわたって受ける放射線量の総量
1kgあたり100Bqのセシウム137を含む食品を1年間、1kg食べた場合の放射線による人体影響(17歳の場合)
※食品安全委員会が2011年10月にまとめた食品中に含まれる放射性物質の食品健康影響評価によると、生涯の実効線量※が100ミリシーベルト以上で放射線による健康影響の可能性があるとのことで、この数値が年間1mSv以下の根拠となっているようです。
参考:エネ百科(内部被ばく線量(預託線量)への換算方法)
参考:⾷品中の放射性物質の新たな基準値について(厚⽣労働省医薬⾷品局⾷ 安全部基準審査 ⾷品安全部基準審査課)
放射線の健康への影響
確定的影響と確率的影響の違い
放射線の影響は、大別すると「確定的影響」と「確率的影響」の二種類があり、それぞれの特徴は下記の通りです。
確定的影響 | 確率的影響 | |
特徴 | 一定量以上の放射能を受けると、必ず出る影響。大量の放射線を浴びた際、細胞死を起こし、臓器の機能喪失を起こします。 | 放射線量が増えるほど発生する確率が高まる影響。細胞の突然変異によってさまざまな疾患を誘発します。 低い線量でも発生する可能性があり、被曝から数年以上経ってから影響が出る場合もあります。 |
身体的影響 | 急性障害(下痢、血液細胞数の減少、吐き気、脱毛等)、不妊、白内障等 | がんや白血病、遺伝性疾患のリスクの上昇。 |
確定的影響は、受けた放射線量が多くなればなるほど、それに比例して放射線障害の影響も大きくなります。しかし、低線量ではほとんど症状が現れることがなく、ある一定以上の限界線量(閾値)を受けた場合に発症します。
確率的影響は、被爆した人に必ず発生するわけではなく、その一部に確率的に現れる影響で、長期的に、がんのリスクが増加すると考えられています。また、受けた放射線量に比例して発生率は上昇します。
放射線障害の閾値は存在しない
確率的影響において、疫学的研究では、200mSv以下の被曝では、有意ながんの発生確率上昇は確認されていません。
しかし、人の放射線防護における予防原則として、閾値がないと仮定(微量の放射線量でも発生確率が存在する)すると、1mSv/年の被ばくを0~生涯継続した場合に、がんの死亡リスクが0.4%上がると言われています。
また、確率的影響によって発生した症状の重さは、受けた放射線量とは関係がありません。
食材宅配サービスの放射能対策
ここまで見てきたように、放射能の健康への(確率的)影響には閾値がないと考えると、放射線を受ける量は少なくすることはリスク管理として重要です。
多くの食材宅配サービスは、それぞれの基準値を定め放射能検査を行い、顧客の安心と安全を掲げています。
ここからは、放射能対策を行っている食品通販サイトの対策内容(検出限界値含む*)を比較して検証していこうと思います。
下記のグラフは国の定めた基準値です。
国の検査基準値 | ||||
品目 | 飲料水 | 牛乳 | 乳児用食品 | 一般食品 |
基準値 | 10 | 50 | 50 | 100 |
※セシウム134と137合計値 単位:Bq/kg
しかしながら、不検出だからといって0ではないので、検出限界値の精度が高くなければ、どれほど基準値を低くしても安心とは言えません。
生活クラブ
生活クラブは、「放射能が健康に与える影響に、閾値はない」とし、内部被曝のリスクをできる限り少なくするべく、国よりも厳しい自主基準値を設定しています。
また、自主基準値を超えた品目は、供給を中止しています。
生活クラブの基準値 | ||||||||
品目 | 飲料水 | 牛乳 | 米 | 肉類・乳製品 | 魚介類・加工食品 | 青果物 | 生椎茸 | 乳児用食品 |
検出下限値 | 1 | 2.5 | 6 | 10 | 1 | |||
基準値 | 5 | 10 | 25 | 50 | 不検出 |
※セシウム134と137合計値 単位:Bq/kg
大地を守る会
大地を守る会は、毎週多くの商品に対して放射能検査を実施しています。不検出となった食材は「放射能不検出の食材」カテゴリーに格納され、該当商品だけ表示させることもできます。
また、大地を守る会の基準値は、国の基準値より厳しく設定されています。
大地を守る会の基準値 | |||||||||||
品目 | 飲料水 | 飲料(お茶含む) | 牛乳・乳製品 | 卵 | 米・パン | 乳幼児食品 | 青果・穀類・肉類 | 魚介類 | その他の食品 | 海藻類 | きのこ類 |
検出限界値 | 3 | 10 | |||||||||
基準値 | 6 | 10 | 10 | 6 | 10 | 6 | 20 | 50 | 20 | 20 | 50 |
※セシウム134と137合計値 単位:Bq/kg
※検査対象地域:17都県は全産地全品目(※北海道を除く、静岡以東の本州産)
※大地を守る会には、北海道、甲信越(新潟、長野、山梨)、愛知以西の産地の野菜をセットにした「子どもたちへの安心野菜セット」があります。
らでぃっしゅぼーや
らでぃっしゅぼーやは、契約生産者の農作物から自主基準値を上回る放射性物質が検出された場合は、出荷停止とし、同時に全量買取ることで生産者さんの利益も守る仕組みを作っているそうです。
自主規制値は、国の基準の2分の1以下(不検出も有り)に設定しています。
らでぃっしゅぼーやの基準値 | ||||||||||||
品目 | 飲料水(お茶含む) | 牛乳・卵 | 乳幼児食品 | 米 | 葉物・果菜類 | その他飲料 | 乳製品 | 果物・根菜 | 肉類・魚介類 | 加工食品 | 海藻類 | きのこ類 |
検出限界値 | 3 | 7 | ||||||||||
基準値 | 不検出 | 不検出 | 不検出 | 5 | 5 | 10 | 10 | 50 | 50 | 50 | 50 | 50 |
※セシウム134と137合計値 単位:Bq/kg
※検査対象地域:青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島、新潟、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、静岡、山梨、長野
※らでぃっしゅぼーやの『めぐる野菜箱』は、北海道・甲信・西日本産のみをお届けする産地限定コースがあります。
オイシックス
オイシックスは、青果物・乳製品・卵・鮮魚・精肉の検査を実施しています。ただし、「グリーンチェック商品」と、「ベビー&キッズ商品」のみ、放射性ヨウ素及び放射性セシウムが「不検出」としており、それ以外の商品は国の基準と同じ100Bq/kg以下です。
参考:放射性物質に関するFAQ
オイシックスの基準値 | |||
品目 | 飲料水 | 牛乳・乳児用食品 | それ以外の食品 |
検出限界値 | 10 | ||
基準値 | 10 | 50 | 100 |
※セシウム134と137合計値 単位:Bq/kg
※「グリーンチェック商品」「ベビー&キッズ商品」のみ基準値は不検出
※九州産地の食材のみを扱う「oisix九州」コーナーがあります。
パルシステム
パルシステムは、食品からの放射性物質の摂取はできるだけ避けるべき」という指針を持ち、独自の基準で検査を実施しています。放射能が検出された場合は、産地と協力して低減に取り組んでいるそうです。
また、乳児用食品については、乳児だけでなく幼児も含めた「乳幼児用食品」として、幼児用の食品にも厳しい基準を設けています。(国の基準は、1才未満の乳児用食品のみ対象)
参考:放射能検査
パルシステムの基準値 | ||||||
品目 | 飲料水(お茶含む) | 乳児用食品 | 牛乳・乳製品 | 飲料・米 | 青果・肉類・卵・魚介類・加工食品・きのこ類(しいたけ除く) | しいたけ |
検出限界値 | 3 | 1 | 3 | |||
基準値 | 10 | 25 | 100 |
※セシウム134と137合計値 単位:Bq/kg
※検査対象地域:北海道を除く東日本産(新潟・長野・静岡以東の本州産)
※外部検査機関にてトリチウム検査も実施
ビオ・マルシェ
ビオ・マルシェは、国の基準の1/10を自主指針として、すべての生産者ごとに一品目を対象にサンプリング検査しています。(2024年3月)
検査により、基準値を上回った商品は、取り扱いを停止しています。
参考:
放射性物質への対応について ビオ・マルシェの基本方針
ビオ・マルシェの基準値 | ||||
品目 | 飲料水 | 牛乳 | 一般食品 | 乳児用食品 |
検出限界値 | 3〜5 | |||
基準値 | 1 | 5 | 10 | 5 |
※セシウム134と137合計値 単位:Bq/kg
※検査対象地域:青森、秋田、岩手、宮城、山形、福島、新潟、茨城、栃木、群馬、埼玉、千葉、東京、神奈川、静岡、山梨、長野
秋川牧園
秋川牧園は、家畜に与える飼料原料について、定期的に自社検査をしており、さらに月1度は外部検査機関に依頼して、原産地の確認・放射性物質のリスクを検証しています。
また、出荷された生産物について、収穫単位、製造単位、週単位、月単位等、性質に応じた綿密な検査を実施中。
自主検査(シンチレーション式)は各5bq/㎏前後、外部検査(ゲルマニウム式)は各1bq/㎏の結果まで確認し、国の基準値よりも約1/10以下の厳しい自主基準を設定し、検査結果を公開しています。
参考:放射能の検査体制
秋川牧園の基準値 | ||||
品目 | 鶏卵・鶏肉・豚肉・牛肉・牛乳・野菜・冷凍食品(副原料含む)・レトルト | |||
検出限界値 | 1〜5 | |||
基準値 | 不明(不検出) |
※セシウム134・セシウム137などの放射性物質の核種を特定して計測
※生産物や飼料について、定期的に検査を実施。それ以外の商品は、放射能リスクを判断し、優先順位を決めて検査を実施。
コープデリ
コープデリの放射性物質の自主検査は、国の機関である食品安全委員会のリスク評価に準拠しています。
具体的には、食品から受ける放射線の総量が年間1ミリシーベルトを超えることのないよう規格基準値を設定しています。
コープデリの検査基準値 | ||||
品目 | 飲料水 | 牛乳 | 乳児用食品 | 一般食品 |
検出限界値 | 1 | 5 | 5 | 10 |
基準値 | 10 | 50 | 50 | 100 |
※セシウム134と137合計値 単位:Bq/kg
※検査対象地域:青森・岩手・秋田・宮城・山形・福島・茨城・栃木・群馬・千葉・埼玉・東京・神奈川・新潟・山梨・長野・静岡の17都県
各食品通販の放射能基準
放射能対策のしっかりした安心の通販は?
ほとんどの食材宅配業者は、食品ごとの基準値や検出下限値にばらつきはあるものの、国の基準値よりも厳しい独自の検査基準を設け、放射能測定値をおおよそ月に一度公開しています。
ただし、検査対象地域が限定的であったり、特定の食品だけ基準が甘かったりするので注意が必要です。
食品全般の放射性物質リスクを出来るだけ下げたいのであれば、「ビオ・マルシェ」、「生活クラブ」、「パルシステム」が良いでしょう。(「パルシステム」は椎茸のみ100Bq)
「大地を守る会」は上記3業者とほとんど同じ基準値・検出限界値ですが、魚介類ときのこ類の基準が50Bqとやや高めです。(国の基準値は100Bq)
「らでぃっしゅぼーや」は、飲料水・牛乳・卵・乳児用食品の基準値は「不検出」、米や葉物は5Bqと低めですが、果物・根菜・肉・魚介・きのこ類などが50Bqとやや高めです。
ただし、きのこ類の基準値は、「ビオ・マルシェ」を除いてどこも高めなので、放射能検査結果を見て確認するのが良いでしょう。
検査対象地域を限定していない通販業者は、「生活クラブ」と、「秋川牧園」です。
「秋川牧園」は、唯一シンチレーション式の検査方法で、核種ごとの数値を公表しており、検出下限値も低めです。(ただし具体的な基準値は書かれておらず、国の1/10と記載)
乳児用食品へのリスクを考えるのであれば、検出下限値1Bqの「パルシステム」か「生活クラブ」、または、基準値が「不検出」の「らでぃっしゅぼーや」(検出下限値は3)でしょうか。(「ビオマルシェ」も、基準値5、検出下限値3)
このように食材宅配業者ごとに検査基準値が異なるので、ご自身のライフスタイルと食生活によって業者選びをすると良いでしょう。