前回の記事では、残留農薬の多い食品、人体への健康リスクについて考察してきました。
今回は、スーパーなどで売っている野菜や果物の残留農薬を効果的に落とす方法をご紹介します。
この記事でわかること
残留農薬の落とし方①【流水で洗う】
残留農薬を落とす方法として、農薬の種類や食材によっては、水洗いもある程度効果があります。
水溶性の高い農薬は、農薬散布から時間が経っていなければ落ちやすい一方で、時間の経過とともに内部に浸透して落ちにくくなります。
水洗いの効果は農薬が表皮についているか、また内部まで浸透しているかなど、作物表面の違いによって異なるわけです。
例えば、食品中の残留農薬平成10年版(厚生省)の「残留農薬の調理加工による減衰」によると、ジャガイモは39%〜99%、ピーマンは26%〜47%の除去率とされ、水洗いだけで3割〜9割の農薬が減少されたとしています。
しかし下記の実験結果を見ると、ニンジンでは水洗いによる除去の効果がほとんどありません。
日本食品化学学会誌2巻2号pp.97~101
日本調理科学会の実験では(作物の表面を水道水で湿らせたスポンジで強めに5回拭き取るー25作物、82検体、延べ356農薬)、農薬の水洗による平均除去率は10%だったとされます。
流水で洗う場合は、野菜は外側の葉を丁寧に洗い、果物であればヘタのくぼみ部分を重点的にこすり、流水で30秒ほど洗い流しましょう。
残留農薬の落とし方②【調理する】
皮をむく(重要)
残留農薬の除去方法で最も効果的な方法が、皮をむくことです。農作物に散布された農薬は作物の外側や表皮に残るからです。
例えば、りんごは柄の部分の残留農薬濃度が最も高く、その次に果皮になります。果肉に浸透した農薬は、果皮の農薬濃度のおよそ1/10です。(図1)
果実では果皮に農薬が残る場合が多く、皮をむいた時のりんごの農薬除去率は平均88%とのことです。(参考1)
またキャベツなどの結球野菜は、外葉を一枚取り除くと、およそ75%の残留農薬が減少します。外葉二枚目では1/2以下になり、4枚目以降の残留農薬濃度は非常に低くなります。(図2)
参考1: 食品中の残留農薬―残留農薬は調理加工により減少するか― 永山敏廣著(日本調理科学会誌 Vol.42, No.2 2009)
東京都健康安全研究センターの報告によると、にんじんにエンドリン、DDT(殺虫剤)などの農薬を添付した場合、皮むき後の農薬の残存率は1%以下になるそうです。
茹でる・炒める・揚げる
残留農薬は加熱処理によっても減少することが分かっています。
ただし、除去率は調理方法や食材・農薬の種類によって差があるため、注意が必要です。
茹でる
鍋に食材の10倍の水を沸騰させ、5分茹でた後に水切りをしたところ、ピーマンとほうれん草両者共に70%以上の減少が見られました。ただし、水溶性の高い農薬に限っては残存率が高いようです。
下記は武庫川女子大学薬学部による「フェニトロチオン等12種農薬の調理加工による農薬の残存率」です。
日本食品化学学会誌(日食化誌) Vol.3 1996
こちらはジャガイモとにんじんを茹でた場合。
日本食品化学学会誌2巻2号pp.97~101
炒める
サラダ油をひいたフライパンに食材を入れて、3分ほど炒めたところ、ピーマンは一部の農薬残存率が茹でた時よりも低いことがわかりました。
日本食品化学学会誌2巻2号pp.97~101
にんじんも、ほとんどの農薬で残存率が低くなりますが、炒めた油の中に残留農薬が溶け出し、摂取量の減少を期待できない可能性があります。(参考2)
下記の図を見ると、ほうれん草においては、茹でた時よりも油で炒めた場合の方が残存率が高いことがわかります。
日本食品化学学会誌2巻2号pp.97~101
参考2: にんじん中BHCの調理による消長(東京都健康安全研究センター研究年報 2005)
揚げる
ジャガイモやニンジンを油で揚げた場合、ほとんどの農薬が検出限界値以下まで減少することが実験結果より示されています。
例えばニンジンの場合、茹でた場合/揚げた場合/炒めた場合を比較すると、揚げたときの残存率が最も低いことがわかりました。
ただし先述したように、農薬が溶け出した油を完全に切ることが難しいため、摂取量自体が減らない可能性もあるので注意が必要です。
以上のように、調理加工による残留農薬の除去においては、皮をむくことでかなりの減少効果を見込めること、さらに火を通すことで一定の農薬が除去されることがわかりました。
例えば、残留農薬の多いトマトでは、皮をむき調理することでほとんどの農薬を除去できることが実験により示されています。(参考3)
参考3: 市販および家庭での調理中のトマト中の農薬の挙動-A.A.K Abou-Arab Received 30 June 1998
残留農薬の落とし方③【重曹】
残留農薬を落とす方法でまず初めにご紹介したいのが重曹を使った洗浄です。
重曹は、コストも安く、身体にも無害な食品添加物ですので、残留農薬を落とす方法としては非常に優秀です。
重曹の特徴
重曹は別名、炭酸水素ナトリウム、重炭酸ソーダ(化学式はNaHCO3)といい、水に溶けやすく、水溶液は弱アルカリ性を示します。
海や温泉など自然界にも存在し、天然重曹鉱石から精製したもの、また人工的に化学合成することもできます。
重曹は人体に無害であり、環境負荷も少ないため、ふくらし粉などの食品添加物や、胃薬などの医薬品、洗濯・掃除用品として日常的に使用されています。
重曹の種類と主な用途
掃除用品として(研磨剤・中和剤)
消臭・除湿剤として
洗濯用洗剤として
医薬品として(胃薬・人工透析剤)
食品用(アク抜き・臭みとり・ふくらし粉など)
重曹は、食用の他に医療用・工業用に分類されます。
医療用の重曹は「炭酸水素ナトリウム」の名前で第三類医薬品(一部のビタミン剤、整腸剤や消化剤などのカテゴリー)として薬局などで売られており、胃もたれや吐き気どめとして使用できます。
食用の重曹は、パンやケーキを作る際のふくらし粉や、ごぼうやほうれん草などのアク抜き、魚の臭みとりなど料理用として活用したり、歯磨き粉の代わりに虫歯・口臭予防としても使用できます。また、お風呂に入れて重曹の温泉を作ることも。
パッケージに「食品添加物」と記載されていれば食用の重曹です。
特にパッケージに記載のないものは工業用(掃除用)の重曹で、ホームセンターや100円ショップにも売っています。
酸性の油汚れや焦げなどを、弱アルカリ性である重曹が中和することで汚れを分解するわけです。また生ゴミや汗の臭いなどの臭いの主成分は酸性なので、重曹によって中和反応をおこし臭いを消し、さらに重曹は水分を吸収するため、悪臭の原因であるカビの発生を抑える効果も期待できます。工業用の重曹は食用として使うことは避けた方が良いでしょう。
用途別の重曹に成分の違いはありませんが、食用として販売するためには「食用衛生管理」基準の条件を満たし認可された工場で製造する必要があるわけです。
つまり食用、あるいは薬品製造として認可されていない工場で作られたものは、「工業用の重曹」とります。
農薬洗浄の重曹は、食品を洗うための重曹ですから「食用の重曹」を選びましょう。
重曹を使った残留農薬の落とし方
先述したように、重曹は人体への安全性から口に入れても害がなく、さらに農薬の多くは酸性のため、残留農薬の除去・食品の洗浄に効果的です。(参考資料①)
用意するもの
重曹(食品用)
水
大きめのボウル
大きめのボウルに1リットルの水を張り、大さじ3杯の重曹を入れます。重曹の粒子が残っていると食材を傷つけてしまうので、よく溶かしましょう。
野菜や果物を投入し、30秒ほどつけおきます。(※つけ置きが長すぎると食材の栄養素が水に溶け出してしまいます。)
ボウルの中で揉み洗いします。
最後に流水で重曹水をよく流しましょう。
重曹水はアルカリ性であるため、野菜の表面にぬるっとした手触りが残ります。ほうれん草など葉物野菜は葉の隙間の重曹水をしっかり落としましょう。
参考資料:リンゴの残留農薬除去における市販、または自家製洗浄剤の有効性
安全性の高い重曹3選
NICHIGA 国産重曹
山口県産の国産食用重曹です。食品安全国際規格ISO22000の認証を取得した工場で製造されており、安全性の高い品質の食用重曹です。
marugo 国産重曹
純度99%以上の食用重曹。厚生労働省が認可した食品添加物製造業免許を取得した工場で製造されています。
木曽路物産 重曹
モンゴル奥地のシリンゴル高原から採掘したトロナ鉱石が原料の高品質重曹。