柿はカキノキ科カキノキ属に分類される、中国原産の落葉果樹です。古来から中国をはじめ、東アジアで栽培され、近年ではブラジルやイスラエル、イタリアやスペインなどのEU諸国でも栽培されるようになりました。現在、世界で400種以上の柿が栽培されています。
その中でも日本の柿(Diospyros kaki)は抗酸化効果が最も優れている品種です。
参考:Involvement of Negative Feedback Regulation in Wound-Induced Ethylene Synthesis in ‘Saijo’ Persimmon)
さて、柿の葉茶はカフェインが含まれず、微かな渋みと爽やかな味わいを持つお茶です。フラボノイドとビタミンCが豊富に含まれているため、強力な抗酸化作用と老化防止の効能が期待できます。
今回は柿の歴史、さらに柿の葉で作るお茶の健康増進効果を解説していきたいと思います。
柿の実の分類
柿栽培の歴史は長く、品種の変異も広く、中国原産の柿品種でも1000品種を超えます。
果実の大きさや形、さらに甘柿・渋柿をはじめとする味覚にも様々なタイプがあります。
柿の果実には可溶性のタンニンが多く含まれており、通常強烈な渋味を有しています。
しかし、品種によっては果実の成熟するにしたがって自然に渋味が消失するものがあり、そのような品種が主に甘柿に分類されるわけです。
柿の原産国である中国では、20世紀後半まで渋柿品種しか存在しないと考えられていたのに対し、日本では13世紀に甘柿品種が発見されています。
柿の葉の食用
柿の葉は、天保時代(1829年〜)の大飢饉によって食べ物が不足していたとき、柿の葉を茹でて食べて、酒の酔いを覚ましたり、熱中による渇きを癒すなどの効能を見出していたそうです。(注1)
現在も寿司飯を柿の葉で包んだ柿の葉寿司など、その保存性・抗菌作用も利用されています。
また、中国では柿の葉はお茶として古くから愛飲されており、漢時代(紀元前1世紀)には既に一般に広く浸透していました。
古代中国の医学書にも、虚血性狭心症、脳卒中、内出血、高血圧、アテローム性動脈硬化症、感染症、さらには麻痺、凍傷、火傷、便秘などを治療する万能薬との記述がされています。(注2)
さらに柿の蒂(柿のヘタ)は吃逆(しゃっくり)止めの特効薬として古来より民間療法として使われていたそうです。
柿の蔕にはオレアノール酸やウルソール酸、ベツリン酸が含意されており、丁子(クローブ)や、生姜と煎じて飲むとしゃっくり抑制に効果があるとされています。
注1: 山本安良『救荒喰延食品』によれば「柿葉、春若葉を採りて、茹でて食うべし。この品。酒毒を消し、暑熱、口乾を止むる功あり」とある。
注2: 参考 Persimmon (Diospyros kaki L.) leaves: A review on traditional uses, phytochemistry and pharmacological properties / Chemical Constituents of the Leaves of Diospyros kaki (Persimmon)
柿の葉茶の効能
果実としての柿は、活性酸素によって引き起こされる酸化損傷を軽減する強力な抗酸化活性を備えた果物のひとつです。
心血管障害や糖尿病などの生活習慣病の予防に効果的と考えられており、その成分はフリーラジカルの生成、高コレステロール血症、糖尿病、がん、皮膚疾患、高血圧などに対する効果を期待できます。
さて、柿の葉の効能としては、酸化ストレス、高血圧、糖尿病とその合併症、アテローム性動脈硬化症に対しての効果が認められています。
特に柿の葉に含まれるカロテノイドとタンニンは、フリーラジカルを抑制し、血圧とコレステロールを軽減させ、さらにがんの発生、糖尿病のリスクを減少させる効果を期待できます。
参考: Persimmon (Diospyros kaki) fruit: hidden phytochemicals and health claims
柿の葉の健康増進成分と効能
柿の葉フラボノイド
柿の葉には豊富なフラボノイドが含まれており、強力なフリーラジカル消去効果を持っています。(注3)
活性酸素であるフリーラジカルは、ほとんどすべての疾患に関わってるとされており、健康な細胞内の遺伝子に対してダメージを与え、免疫力の低下やがんの発生を促すなど、様々な健康リスクをもたらします。
上記のように柿の葉のフラボノイドはフリーラジカルを除去し、細胞増殖を阻害することがいくつかの研究で報告されています。(注4)
さらに柿の葉のフラボノイド配糖体の一種であるアストラガリンは、アレルギー発生の原因となるヒスタミンを阻害する抗アレルギー作用が認められています。(注5)
アストラガリンにはヒスタミン分泌抑制作用も解明されており、花粉症対策としても期待されています。
また、柿の葉フラボノイドのひとつケルセチンは、リンゴやタマネギにも含まれ、フラボノイドの中でも特に強力な抗酸化作用を示し、がん、動脈硬化、糖尿病などの生活習慣病の予防として期待されています。
注3: Antioxidative Activity of Flavonoids in Persimmon Leaves
注4: Inhibitory Effects of Pectic Polysaccharide Isolated from Diospyros kaki Leaves on Tumor Cell Angiogenesis via VEGF and MMP-9 Regulation / Persimmon Leaf Extract Inhibits the ATM Activity during DNA Damage Response Induced by Doxorubicin in A549 Lung Adenocarcinoma Cells(柿の葉エキスはA549肺腺癌細胞においてドキソルビシンにより誘導されるDNA損傷応答におけるATM活性を阻害する)
注5: Persimmon leaf extract and astragalin inhibit development of dermatitis and IgE elevation in NC/Nga mice
柿の葉タンニン
渋柿の渋みの元となるタンニンには、強い抗酸化作用があることは知られていますが、柿の葉にもタンニンは含まれており、強い抗酸化作用を持ち、活性酸素の除去作用により心筋梗塞などの循環器系疾患の予防が期待できます。
また、いくつかの研究では柿から抽出した柿タンニンが新型コロナウイルスを一万分の一以下に不活化する研究結果が得られています。
さらに柿タンニンは、インフルエンザウイルスや、ノロウイルスなどのウイルスに対しての不活化にも有効であるという研究もあるようです。
参考: 奈良県立医科大学 柿渋の新型コロナウイルスに対する研究成果の製品化共同開発事業
参考: タンニン酸は、ウイルスのメインプロテアーゼと細胞内TMPRSS2プロテアーゼの二重阻害剤としてSARS-CoV-2を抑制する
柿の葉のビタミン(アスコルビン酸)
豊富なビタミンで知られる柿。しかし果実だけではなく柿の葉にも多量のビタミンCが含まれています。
生の柿の葉100gにはレモン一個のビタミンと比較して最大20倍程度(注6)、緑茶(煎茶)の80倍程度のビタミンが含まれており、さらに柿の葉のビタミンCはビタミンCの前駆体と言われる「プロビタミン」と言われる成分で、熱に弱いビタミンCとは異なり、熱湯で煎じたお茶にしてもビタミンの有効成分が分解されません。
また、プロビタミンCは体内でビタミンCに変化するため、野菜や果物からのビタミンCの摂取が不足している時に手軽に補うことができます。
注6: 柿の葉に含まれる有効成分であるビタミンCやポリフェノールを調べるために一連の研究が行われました。6月、7月、9月、10月に採取した柿の葉を検査した。<中略>
ビタミンCの量が最も多く検出されたのは、7月に採取された生の葉であった。記録された値は 485mg/100gでした。
柿の葉の栄養成分まとめ
このように、柿の葉には豊富なビタミンやタンニンが多く含まれ、抗酸化作用や免疫力の向上に有用であるとともに、それらのビタミンによって、シミやそばかすの原因となるラニン色素の生成を抑制することから、美白効果も大いに期待できるでしょう。
また、多量のビタミンCは抗ウイルス作用を持つインターフェロンの生成も活性化するため、ウイルス性疾患の予防効果があるとされています。
さらに柿の葉に含まれるビタミンAの前駆体であるカロテノイドや、マグネシウムやカリウムなどのミネラル、そしてポリフェノール、フラボノイド、テルペノイドなどの有機化合物は
抗酸化作用、および抗変異原性作用を通じてがん細胞の増殖を抑制します。(注7)
注7: 参考 Plant-derived natural products as leads to antitumor drugs
このように柿の葉は、様々な健康増進効果が期待できます。
とりわけ加熱しても破壊されずに摂取できるビタミンCの効能から、お茶として飲むことで、高血圧による動脈硬化の予防、がん予防効果が見込め、さらには柿の葉にはカフェインが含まれていないので、身体を冷やさず、温活効果を維持することができます。
柿の葉茶のデメリット
柿の果実には、身体を冷やすことが知られています。研究によると柿を食べると足と手首の末梢体温を下げることがわかっています。(注8)
また、柿は消化にあまりよくなく、柿に含まれるシブオールと胃酸が化学反応をおこし胃石を形成してしまうそうです。
柿胃石は食欲不振や胃痛・吐き気などの原因になるとのことで柿の食べ過ぎには注意が必要です。
とはいえ、お茶として煎じて飲めば大丈夫。産後や冷え性、貧血の方も安心して飲用できます。
柿の葉茶の簡単な淹れ方
柿の葉は、家の庭にある果樹などから採取しても良いですし、もちろんティーパックに詰めて販売されている柿の葉茶でも手軽に飲用できます。
採取した柿の葉を使った茶葉の作り方
採取する場合は、柿の葉の水溶性タンニン含有量、及び抗酸化物質量がより高い5月中旬から6月初旬、あるいは、ビタミンCの含有量が最も上昇する7月末から8月にかけて葉摘みを行うのが良いでしょう。(注9)
古い葉ではなく、若葉を選んで採取しましょう。
①採取した柿の葉をよく洗って、三日ほど陰干しをして乾燥させる(直射日光から紫外線が当たらないように日陰で)
②歯ブラシなどで、葉脈を取り除き、細かく包丁で刻む
③蒸し器で葉を1分〜2分ほど蒸らす(蒸し器がなければ深めの鍋に耐熱皿を逆さで置いて土台を作り、3〜5センチほど水を張って、土台の上にザルを乗せ、水を沸騰させたら蓋をして2分ほど)
④へたへたになった葉を布やクッキングペーパーに敷いて水分を取り除く
⑤再度陰干しをして完全に乾燥させます
⑥茶筒やジップロックなどに入れて空気や湿気に触れないように保管します
柿の葉茶の淹れ方
急須や茶瓶(500cc)に茶葉ひと掴み(2g〜3g程度)入れて、沸騰したお湯を注ぎましょう。5分から10分程度おいたら完成です。抽出時間は加減して好みの濃さに調整します。
水出しの場合は、茶漉しの付いた水出し茶ポットに茶葉を入れるか、お茶パックに茶葉を入れてボトルで作ります。1リットルにつき10g〜15g程度の茶葉を使いましょう。冷蔵庫で一晩おいてゆっくり抽出させたら完成です。
ティーパックの柿の葉茶でも、上記と同じ要領で淹れると美味しくいただけます。
アイスの柿の葉茶はすっきり爽やか、温かいお茶ならほんのりした甘みがとても上品です。また、他の茶葉とブレンドしても良いでしょう。(個人的に、柿の葉茶と相性の良い茶葉として、よもぎ、ジンジャー、ミントをブレンドすると美味しかったです。)
注9:
柿の葉茶加工のための柿の葉の生育過程における化学成分の変化
柿の葉の抗酸化物質と生育過程における変化
柿及小柿の葉のビタミンCについて
おすすめのオーガニック柿の葉茶
柿の葉を手に入れることが難しくても、市販の柿の葉茶で有効成分が十分に得られます。
ティーパック、パウダータイプかで違いはありますが、今回はティーパックタイプの国産有機栽培で茶葉を採取しているメーカーで、筆者が実際に飲んでみて美味しかった銘柄をご紹介します。