残留農薬とは?農薬のメリット・デメリット【各国の農薬使用量ランキング】

学び
公開日時:2023/08/11
更新日時:2024/07/14

世界で持続可能な社会を目指す機運が高まっている中、昨今、食の安全・健康に対しての意識も高まっています。
日本でも、有機栽培や無農薬農法を実践する農家さんが増え、食材の品質を意識する方々も多いのではないでしょうか。

今記事では、日本の農薬使用量、食材ごとの残留農薬量を事実(エビデンス)を元に考察し、最後にしっかり残留農薬を落とす方法を解説します。

農薬の効能とは?

農作物に有害な病害虫

単一種の「栽培作物」を育てる農作地では、病害虫が発生しやすく、雑草が繁茂しやすい特徴があります。
「栽培作物」は、外敵(病害虫)から身を守るための苦味やアク味を削ぎ落とし、ヒトの味覚に合わせた作物だからです。

無農薬

しかし、そのような「美味しい」作物は病害虫にとっても、格好の餌になってしまいます。
そして作物の病気は収穫量に直結し、農家の収入に大きな被害をもたらすのです。

防除としての農薬

そこで、農作地では病害虫や雑草の発生を防ぐために農薬散布を行うわけです。
農薬を使わずに栽培作物を作るのは、手間とお金がかかります。亜熱帯地域の日本では病害虫が発生しやすく、安定的な収穫量を確保するために、農薬はいわば必須の防疫なわけです。

以下は農薬不使用の場合の収穫率(*表1)と、農薬を使う主な理由です。

この表を見ると、農薬を使わなかったら、収穫量がどれほど減ってしまうかわかります。バラ科のリンゴなどは、虫がつきやすく農薬が必須と言えますね。

農協の定める見た目の基準(等級)を担保するため
高温多湿の風土による病害虫の防疫のため
高齢化に伴う農作業労働の緩和のため

農薬代金も売上のおよそ7%にのぼると言われていますので、農薬は生産者にとって大きな意味を持っていることがわかります。

農薬の種類

農薬は大きく分けると殺虫剤や殺虫殺菌剤、除草剤に分類され、さらに植物の成長を増進または抑制する植物成長調整剤なども農薬に含まれます

また、稲作などで行われるアイガモ農法なども、アイガモが水稲にとって不要な草を食べることから、農薬取締法では「農薬」に定義されてます。

殺虫剤 農作物に被害を与える有害な昆虫・ダニ等、また根などに寄生する線虫類を防除します。
殺菌剤 病原菌や細菌による葉枯れ・根腐れなどの病気を防ぎます。
除草剤 農作物の成長を妨げる雑草類を除草し、収穫物の品質保持を助けます。
植物成長調整剤 農作物の生理機能をコントロールし、結実を促進したり、稲の成長を調整し倒状を防いだりします。(種無しぶどうなど)

残留農薬の危険性

農薬使用量ランキング(世界と日本)

日本の農薬使用量は世界で最も高いということをご存知でしょうか?
日本の国土は高温多湿のため、病害虫が発生しやすいことも一因ですが、農薬大国といわれいてる米国と比べても、およそ4倍(耕地単位面積当たり)もの使用量を誇ります

国連食糧農業機関(FAO)が計測公開しているデータベースによると、日本の耕地単位面積当たりの農薬使用量は、1h当たり11.24Kgで、世界でもかなり高い数値です。
G20の中では中国・韓国に次いで日本は2番目、またOECD加盟国(経済協力開発機構)ではイエスラエル以外東アジアの農薬使用が多量であることがわかります。

*グラフはOECD加盟国とTTP加盟国を中心に記載


*耕地面積当たりの農薬使用量(2020年)
出典:FAOSTAT – Pesticides Agricultural Use by country (2021)

残留農薬基準って何?

栽培・生産の過程で作物に付着した農薬のことを残留農薬と呼びます。
農薬を使った分だけヒトが摂取すれば、人体に悪影響を及ぼすため、どの程度の残留農薬であれば人体に無害であるかという基準が「残留農薬基準」です。

つまり、作物に残ることが許容された農薬限度量が、厚生労働省によって明確に定められているわけです。残留農薬基準を決定する要素は下記の2つの単位によって算出されます。

また、残留基準値がない農薬でも、一定の基準を超えて農薬が検出された場合、出荷停止・流通禁止など厳しい措置が取られます。(ポジティブリスト制度)

一日摂取許容量(ADI) 該当の農薬を一生涯毎日摂取し続けても、健康に悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量
急性参照用量(ARfD) 該当の農薬を短時間(24時間以内)に摂取した場合でも、健康に悪影響がないと推定される一日当たりの摂取量

*このADI/ARfDは、ラットによる毒性試験を実施し、この実験により毒性の現れない数値に安全係数をかけて算出されます。また国民が年間で摂取する農作物の総量の合計がADIの8割未満の場合のみ、該当の残留農薬基準が採用されます。

日本の残留農薬基準は甘い?

日本は農薬の使用量が世界的に見ても多い、ということはわかりました。
それでは残留農薬の基準値はどうでしょうか。

欧米と比べて、日本の残留農薬の基準は甘く、ヨーロッパでは、使用禁止されている薬剤が、日本では規制されずに使われている、という話もよく耳にします。
日本の残留農薬基準は各国と比較して緩いのでしょうか?

結論から書くと、作物・農薬によって基準値は異なります。

例えば、白菜に使用される殺菌剤ボスカリド(Boscalid)という殺菌剤を比較すると、韓国の残留農薬基準は日本のおよそ13倍厳しく設定されています。

一方で、稲作に使われるベンゾビシクロン(Benzobicyclon)という除草剤においては、韓国は日本の基準値の1/2程度緩く設定されています。

参考文献: Ministry of Food and Drug Safety MRLs in Pesticide (韓国) | 残留農薬基準値検索システム(公益財団法人 日本食品化学研究振興財団)

なぜ残留農薬の基準値が各国によって異なるかというと、
第一に、国・地域によって作物の年間摂取量が異なることが挙げられます。

残留農薬基準は国民が年間で摂取するそれぞれの作物の量を、一日の摂取許容量(ADI)にかけ合わせた値なので、その国・地域の食生活によって違ってくるわけです。
(上記の例で言えば、仮に韓国人が日本人より年間13倍の量の白菜を食べていたら、摂取するボスカリドの総量は同じになる)

第二に国土や気候条件によって同じ作物でも、生産方法が変わるというのも、理由の一つです。

日本で発生する病害虫が、欧米では発生しないとすれば、日本とヨーロッパで使用する農薬も変わってくるので、農薬の残留基準も当然変わります。

一例を挙げると、稲作における米国と日本の農薬散布回数は、日本が7回であるのに対し、米国は3回。これは日本の気候が高温多湿で病害虫の発生が多いことが起因しています。

このように残留農薬基準は、各国の環境的要因、また国民の食生活事情などが関わってくるので、日本だけ特別基準が甘い、とは一概に言えなそうです

とはいえ、さまざまな事情によって特定の作物の残留農薬基準が緩かったり、特定の農薬において規制が甘いなどのケースが存在するのは確か。

次記事ではそのような、残留農薬基準がゆるく、大量の残留農薬の付着が予想される食材を挙げていきたいと思います。

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この記事を書いた人:Marei Suyama
株式会社good umbrella代表。東京と岡山の山間部を行き来して生活しています。 持続可能な社会を作るため、また人々の健康のための役に立つ情報・tipsをご紹介します。有機食品・フェアトレード製品・健康生活用品、オーガニックコラムなど。
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